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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3716号 判決

原告

三木参昭

被告

桂清志

ほか一名

主文

一  被告桂清志は、原告に対し、金二六三六万八五三三円及びこれに対する平成五年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告富士火災海上保険株式会社は、原告に対し、原告の被告桂清志に対する前項の請求が確定することを条件として、金二六三六万八五三三円及びこれに対する平成五年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、一〇分し、その二を原告の、その余は被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

1  被告桂清志は、原告に対し、金三一七五万二六六八円及びこれに対する平成五年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告富士火災海上保険株式会社は、原告に対し、原告の被告桂清志に対する前項の請求が確定することを条件として、金三一七五万二六六八円及びこれに対する平成五年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、普通貨物自動車が現場交差点を歩行横断中の被害者に衝突して死亡した事故に関し、被害者の遺族から、同車を運転していた被告桂清志(以下「被告桂」という。)に対し民法七〇九条、自動車賠償賠償保障法(以下「自賠法」という。)に基づき、損害賠償(一部請求)を求めるとともに、被告桂清志との間で保険契約を締結していた被告富士火災海上保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)に対し、右保険契約に基づき、保険金の支払いを求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  次の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

(一) 日時 平成五年一二月六日午後零時五五分ころ

(二) 場所 兵庫県姫路市飾磨区玉池一丁目六六番地先路上(以下「本件交差点」という。)

(三) 事故車 被告桂運転の普通貨物自動車(姫路四〇め一三三九、以下「被告車」という。)

(四) 事故態様 三木マサノ(以下「マサノ」という。)が本件交差点を歩行横断中、後方確認をすることなく後退した被告車に衝突されたもの

2  死亡に至る経過

マサノは、本件事故により脳挫傷等の重症を負い、医療法人姫路中央病院に入院したが(入院日数九〇日)、平成六年三月六日、死亡した。

3  被告らの責任

(一) 被告桂は、被告車の保有者として自賠法三条に基づき、後方不確認の過失により民法七〇九条に基づき、損害賠償責任を負担する。

(二) 被告保険会社は、被告桂清志との間で、被告車について自動車保険契約を締結していた。

4  相続

原告はマサノの長男であり、被害者の唯一の相続人である(甲二二)。

三  争点

1  遺族厚生年金の逸失利益性の有無

2  損害

第三争点に対する判断

一  争点1(遺族厚生年金の逸失利益性の有無)について

原告は、マサノには経済的に余裕があつて、年金給付の生活保障的側面が希薄であり、むしろマサノが原告の生計維持に協力していた等事情に加え、厚生年金保険法も逸失利益性を全く排除するものではなく、逸失利益性を否定するのは損害の公平な分担の理念に反するなどとして遺族厚生年金の逸失利益性を肯定すべきであると主張する。

しかしながら、そもそも遺族厚生年金の逸失利益性は、年金の性質如何により判断されるべきものであり、年金受給者の個々具体的事情を勘案すべきでないから、マサノの経済的事情を考慮すべきとする原告の右主張は採用できない。また、遺族厚生年金は、退職年金等の受給権者によつて生計を維持していた者に対して与えられるものであつて、遺族厚生年金の受給権者の生活保障のために受給される生活保障的色彩の強いものであり、退職年金等のように受給権者のみならずその者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても損失補償ないし生活保障を与えるとの性質を有しているわけではなく、したがつて、一身専属性が強いものであるから、右性質に照らせば、遺族厚生年金の逸失利益性を否定するのが相当であり、そのように解釈することがかえつて損害の公平な分担の理念に適合するものというべきである。

二  争点2(損害)について(円未満切捨て)

1  逸失利益(請求額七〇二万七六二八円) 二六五万一五三三円

マサノは、本件事故当時八五歳であつたが、病気もなく健康であり、原告ら家族(妻と子供二人)と同居し、炊事、洗濯も少しはしながら平穏に生活していたこと(原告)等に照らし、家事労働はしていたが、その労働力をいわゆる主婦の家事労働と同等にみることはできず、したがつて、平均賃金の五割程度の収入があつた評価するのが相当である。また、マサノは、本件事故当時、老齢年金四四万七九〇〇円の給付を受けていたことが認められる(甲八)。

そうすると、マサノは、本件事故により、平均余命の九一歳まで(平均余命は六・一一歳、平成四年度簡易生命表)、当初の三年間は、賃金センサス(平成五年第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者の学歴計六五歳以上、顕著な事実)の年収額の五割である一四二万一一五〇円程度の収入を、その後の三年間は右年金収入を失つたものであり、また、生活費控除率については、家事労働については四〇パーセント、年金収入については七〇パーセントを控除するのが相当であるから、ホフマン式計算法により中間利息を控除して逸失利益を算定すると、以下の計算式のとおり、家事労働分につき、二三二万八六九六円、老齢年金分につき、三二万二八三七円の合計二六五万一五三三円となる。

1,421,150×(1-0.4)×2.7310=2,328,696

447,900×(1-0.7)×(5.1336-2.7310)=322,837

2  慰謝料(請求額入院分一四〇万円、死亡分二〇〇〇万円)二〇〇〇万円

前記事故態様、マサノの年齢、死亡に至る経過、九〇日間の入院等の諸事情を勘案すれば、入院慰謝料としては一〇〇万円、死亡慰謝料としては一九〇〇万円を認めるのが相当である。

3  治療費(請求額七万〇〇四〇円) 〇円

原告は、平成六年一月五日から同月一二日までの室料差額を求めるが、右期間の個室使用は、医師が勧めたものではなく、原告自身が個室の方が他の病気に感染しにくいと判断して希望したものであることが認められるから(原告)、右室料差額は、本件事故と相当因果関係のある治療費としては認められない。

4  入院雑費(請求額一三万五〇〇〇円) 一一万七〇〇〇円

マサノは、前記のとおり本件事故により九〇日間の入院をしたことが認められ、一日当たりの入院雑費を一三〇〇円とするのが相当であるから、右費用は一一万七〇〇〇円となる。

5  入院付添費(請求額五二万円) 〇円

医療法人姫路中央病院は完全看護の病院であるから(原告)、入院付添費は認められない。

6  葬儀費用(請求額三四三万四三三九円) 一二〇万円

原告は、仏壇仏具代を含め右金額を請求するが、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一二〇万円を認めるのが相当である。

7  以上損害合計は二三九六万八五三三円となる。

8  弁護士費用(請求額二五〇万円) 二四〇万円

本件事案の内容、認容額等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は、二四〇万円を認めるのが相当である。

三  以上によれば、原告の請求は、被告桂に対し、金二六三六万八五三三円及びこれに対する本件事故日の翌日である平成五年一二月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う限度で、被告保険会社に対し、原告の被告桂に対する右請求が確定することを条件として金二六三六万八五三三円及びこれに対する本件事故日の翌日である平成五年一二月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う限度でそれぞれ理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

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